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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6028号 判決

原告

浜国レール株式会社

右代表者

浜田国一

右訴訟代理人

小倉武雄

外三名

被告

安田誠一

右訴訟代理人

馬瀬文夫

外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一請求原因一の事実のうち原告が戸車用ビニールレールの製造販売を開始した時期を除くその余の事実、同二の事実、同三の事実のうち原告主張の日にその主張の条項を含む本件和解が成立したこと、同四の事実のうち原告がその主張の日にその主張の金額を支払つたこと及び同五の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、原告は本件実用新案登録が無効であることが確定したことにより本件和解が遡つて無効となり、本件和解に基づいて被告に支払つた金員はその法律上の原因を失つた旨主張するので、この点について判断する。

当事者間に争いのない本件和解の各条項を仔細に検討するも、本件実用新案登録が無効となつた場合に関する取決めのあつたことは認められないし、また無効となつた場合に当然の本件和解が無効となるものと解釈すべき条項も認められないので、原告のこの点の主張は理由がない。

三次に、原告は本件和解においては本件実用新案権が有効に存在することが前提となり、かつこのことが右和解の要素であつたことを理由として本件和解の無効を主張するので、この点について判断する。

まず、〈証拠〉を合わせ考えると、原告は、前記仮処分の執行を受けたため防禦方法として被告を相手方とする異議を大阪地方裁判所に申立て同裁判所昭和三四年保(モ)第三一〇八号仮処分異議事件として審理され、また特許庁に対し被告を被請求人とする本件実用新案登録の無効審判を申立て同庁昭和三四年審判第四〇四号実用新案登録無効審判事件として審理され、さらに被告を相手方として大阪地方裁判所に対し訴訟を提起し同裁判所昭和三四年(ワ)第四四八四号訴訟事件として審理され、これらの審理継続中に原告の取引銀行である株式会社富士銀行島之内支店の武用義雄、畑田正巳、林田伊三郎が仲介者となつて本件和解が成立したものであること、原告は右訴訟事件審判事件等において本件実用新案にかかる考案がその出願当時公知の技術であつたことを理由としてその登録が無効であると主張し、一方被告はこれが有効であると主張して争い、右登録の効力が争いの対象になつていたが、原告は右仮処分の執行を受けたことが原因となつて経営がゆきづまつていたことなど諸般の事情からかかる紛争を早期に円満解決して営業を再開し、戸車用ビニールレールの製造販売をすることができるようにするのが得策であると考え、右各仲介者の説得に応じ、その主張を譲歩することになり、原告も本件実用新案権を尊重し今後にわたつてその登録無効等を主張して効力を争うことを一切終止し、本件実用新案と同一もしくは類似の戸車用ビニールレールを販売する場合には被告の提供する証紙を貼付する方法によつて被告に所定の金員を支払うことを了承し、右訴訟事件については本件和解と同一内容の訴訟上の和解をし、他の審判事件等についても原告はこれを取下げ、被告も右仮処分執行を取消すほか和解成立前の原告の行為について損害賠償等の請求を放棄することなどを骨子として本件和解が成立したものであること、その後昭和三五年三月二四日大阪地方裁判所において右訴訟事件につき原告の訴訟代理人であつた弁護士が出席して本件和解と同一内容の訴訟上の和解が成立したこと、本件和解成立後は原告も本件実用新案権が他から侵害されないように被告らと協力して警告書を発する等侵害排除をはかつて来たこと、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

そこで案ずるに、本件和解は、原告が本件実用新案権を尊重することを中心にすえて締結されたものであるが、右認定事実によれば、本件和解前に原告は本件実用新案登録が無効であると考えてその旨の主張をし、一方被告はこれが有効であると主張して争い、右訴訟等においては右登録の効力が争いの対象となつていたところ、諸般の事情から互譲によつて右争いを終始させる趣旨で本件和解が締結されたこと、換言すれば原告が本件実用新案権を尊重しその登録の効力の争いを終止することを約したのは、単なる前提事項ではなく、一つの互譲として和解の内容をなすものであることが明らかであるから、本件のようにその後右争いの目的であつた本件実用新案登録の効力が無効であることが確定しても、民法六九六条の趣旨に徴し当事者双方はこれを理由として本件和解の効力を争うことはできないと解するのが相当である。

従つて、この点の原告の主張も理由がない。

四叙上判示したところによれば、本件和解が無効であるとの原告の主張はいずれもその理由がないから、本件和解に基づいて支払つたとする金員が法律上の原因を欠くものとはいえず、従つて原告の本訴請求はこれを肯認することができない。

よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(大江健次郎 小倉顕 北山元章)

証紙代金支払一覧表 〈省略〉

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